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大前研一「ニュースの視点」
2007/03/09
〔大前研一「ニュースの視点」〕
KON153 弱さを露呈した米経済。上海市場の急落は、単なるトリガーに過ぎない

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 円借り取引
 IMF・ラト専務理事、円借り取引の拡大に懸念

 NYダウ 1週間で530ドルの超下落
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●円借り取引の今後の影響とは?

27日、IMFのラト専務理事が、金利の低い円で資金を調達し、
利回りの高い新興市場国の通貨などで運用する
「円借り取引」の拡大について、市場が動揺し、ドルの急落を
招きかねないとして強い警告を発しました。

今後、円借り取引の増大により、ユーロ高を招き、欧州の
輸出競争力を弱めている可能性も懸念しているとのことです。

私は、日本の低金利政策に賛成ではありませんが、
しかし、このラト専務理事の発言にも賛成しかねます。

そもそも、低金利のうちに借りるだけ借りておいて、
今になって、円借り取引の影響を批判するのは
筋が違うのではないかと思います。

ただし、私は日本の金利上昇を受けて、今すぐに日本に資金が
戻ってくるような流れになるとは思えません。

確かに、短期的には、これまでゼロ金利で日本円を
借りまくっていた人たちが、日本円を返済するために
ドルでの利益を確定して日本に資金が戻ってくるという
流れになることもあるでしょう。

しかし、円が利上げされたとは言っても、現在の0.5%程度では
未だに欧州との間に3%の開きがありますから、
再び円キャリーの流れに戻っていくだろうと思います。

一時的なショックはあっても、本当の意味で日本円が
強くならなければ、日本に資金が戻ってくることは
ないだろうと思います。

この円借り取引解消の動きがドルの急落につながると
懸念する人がいますが、私に言わせれば、ドルに限らず、
すべての通貨に急落する恐れがあるということになります。

確かに、ドルについて考えてみると、
今回の円借り解消のために、米国から資金が流れ出て
しまうことになりますから、結果として、米国の国内経済が
しっかりしていなければ、ドル急落へと転じる可能性は
高いでしょう。


●弱さを露呈した米国経済。上海市場の急落は、
                単なるトリガーに過ぎない。

さて、ドル急落が懸念される中、ニューヨーク株式市場では、
ダウ工業株30種平均がこの1週間で合計533ドルの下げを
記録しています。

一時は、12,000ドル台から13,000ドルへと、そのまま
上昇するかと思われましたが、ここに来て、一気に
12,000ドル台前半まで下落してしまいました。

※「米国ダウ工業株30種平均」
「米国ダウ工業株30種平均」チャート

この動きを、中国政府の金融引き締め観測などによって、
上海市場が急落したことに起因すると指摘する人がいますが、
それは全く見当違いだと私は思います。

結論から言えば、すでに米国経済は実力以上に伸びきっていて、
バブル状態にあったのです。

いつそれが終わりを迎えるのか?と
誰もがタイミングを見計らっていたという状況で、
たまたまトリガーを引いたのが中国だったというだけです。

ですから、中国ではなくても、例えばインド市場が
急落していたとしても、同じ結果になっただろうと思います。

BusinessWeek誌(2007年3月5日号)に掲載されていた、
次のような統計を見ると、米国の現状を正しく判断することが
できるでしょう。

・米国の国内投資の割合のうち、75%は外国人による投融資で
 占められている。
・06年の米国の長期証券への純流入額は、月平均で
 約700億ドルでしたが、どういうわけか12月時点では
 150億ドルにまで下がってきていた。

国内投資の75%超を外国人の対外融資に頼っていた
米国経済において、月平均約700億ドルもの資金が流入し、
金利の上昇を生み、それが一層の資金流入を促すという
マネーゲームが展開されていたのです。

ほとんどが外国からの借り物のお金で、国内投資が潤っていた
だけですから、誰もがおかしいと思っていたのでしょう。

そして、いつまでも好景気が続くはずはなく、
必ずどこかで崩壊すると感じていたと思います。

そんな市場心理の中で、昨年末米国の長期証券への純流入額が
150億ドルにまで激減していたのです。

そして、市場としては何か不安な様相を呈してきたと
思っていた、まさにその矢先に、今回の中国・上海市場の
急落が起こったのです。

この状況なら、市場が抱えていた米国経済に対する
潜在的な不安が、一気に爆発してしまうのは、容易に
想像できると思います。

このように潜在的に米国経済に対する不安が広がっている
状況でしたから、別に中国でなくても、どこがトリガーを
引いてもおかしくない状況だったと言えるでしょう。

「中国・上海市場が急落→米国市場の急落」という図式で、
単に時間的な概念からのみの判断で結び付けてしまうのは、
短絡的だと言わざるを得ないでしょう。

特に、市場には常に人間の心理が働いています。
ここを見落としてしまうと、マネーサプライと金利だけで
景気回復を図ろうと固執する日本の政府や役人と同じです(※1)。

(※1:参考
 http://www.lt-empower.com/mailmag/back_10/061117_b.html

1つ1つの事象を全体の中で位置づけながら、
ロジカルに考える習慣をつければ、このような短絡的な
判断にはならないでしょう。

ぜひ、ビジネス・パーソンには、日頃から習慣化するように
意識してもらいたいところです。

                                        以上



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